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以前の話であるが、母が脳梗塞で倒れた時のことである。
少し顔面と手にマヒが残った。
母はそれまでも糖尿病、筋肉リューマチと決して健康的な生活を送っているとは云い難い状況だった。
特に筋肉リューマチの痛みはつらいらしく、見ていて可哀想であった。
痛みを押えるステロイド系の薬を飲むと血糖値が上昇し、糖尿病が悪化し、治療にも限界があった。
苦しんでいる母を前にして自分の無力さが情けなかった。
つらい入院生活を送っている母に何かできることはないだろうか。
そうだ、こちらがつらい顔をみせるのではなく自分の本音とは裏腹かもしれないが、笑顔で明るい言葉をかけてみようと思った。
「きょうは顔色がいいよ」、「きょうはこんなうれしいことがあったよ」、「きょうは子ども達(母の孫)がね……」云い続けていると母の顔が少し明るくなってゆくのがわかった。
それからは病室の前で気持ちの切り替えをしてから入ることにした。
その場の雰囲気に流されるのではなく母の前では常に笑顔で明るい言葉を発するようにつとめた。
ある日、見舞いを終え病院から出て、3階の母の病室の方を振り返った時、母が横になっていたベッドの上に起き上がり私の方をじっと見ていた。
私が母に向って手を振ると筋肉リューマチで痛いはずの手を上げて応えてくれた。
その母も4年前に他界した。
恩返しのまねごとでもいい、母のために何かしてあげられたことがはたしてあったのだろうか。
河村 貴雄