税理士試験の最後の科目に何度挑戦しても失敗をした時のことである。
師と仰いでいる方に「河村さんはまだ親に繋がっていませんね」と云われた。
当時、私は東京の会計事務所に勤務し、結婚し、子供達もいた。
しかし、ことさらに親孝行ということは意識したことがなかった。
その方は更に次のようにおっしゃった。 ①親に毎日挨拶をしていますか。
②親の美点(長所)をみていますか。
③親の願いに応えていますか。
改めて考えてみると、どれも自信がなかった。
そこで、ささやかな実践を始めた。
毎朝、別府にいる両親に向って通勤する車の中から 大きな声を出して挨拶をした。
「お父さ~ん おはようございます。 お母さ~ん おはようございます。」
毎朝、継続しているとそれまで何十年と忘れていた小さい頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。
父は公務員だったので2、3年毎に転勤していた。
臼杵市の借り家に住んでいた頃、私が肺炎にかかり、母が近くのお医者さんに往診を頼みに行ってくれた。
枕もとで苦しんでいる私を見兼ねてか、当時まだ30才になるかならない父が「おい、貴雄だいじょうぶか おい、貴雄だいじょうぶか。」 と一生懸命案じてくれている姿。
自分はどれだけ親に迷惑をかけ心配させてきたのかと思い出すと涙が流れて仕方がなかった。
しかし、不思議なことにその頃から夜の勉強がはかどるようになった。
そしてその年の暮、待望の合格通知が届いた。
親に少しだけ繋がることができたことで、合否ラインぎりぎりの1、2点の差を何とかクリアーさせてもらえたのだと感謝した。
ある賢人はこう述べている。
「親を尊敬して、大切にし、日夜孝養を尽くすのは親が偉いからではない。強いからではない。世の中にただ一人の親であるからである。私の命の根元(もと)であり、むしろ私自身の命である親だからである。」と。
代表
河村 貴雄